人気デートアプリHingeの元CEOが、新たにAIを活用したサービスを立ち上げました。一見、BtoBとは無関係に見えるこのニュースから、これからの顧客との関係構築において非常に重要なヒントが見えてきます。
なぜ今、AIデートアプリがBtoBマーケのヒントになるのか?
先日、海外のテック系メディアで興味深いニュースが報じられました。人気デートアプリ「Hinge」のCEOが退任し、新たに「Overtone」というAIを活用したデートアプリを立ち上げるというのです。
このOvertoneが目指すのは、「AIと音声ツールを活用し、人々がより思慮深く、パーソナルな形でつながる手助けをすること」。単にプロフィールをスワイプするのではなく、AIが会話のきっかけを提案したり、音声を通じて相手の人柄を伝えたりすることで、より深い人間関係の構築を目指すサービスのようです。
「なるほど、CtoCの最新トレンドか」で終わらせてしまうのは、非常にもったいない。BtoBマーケターの皆さんも日々感じていることと思いますが、私たちBtoBの世界でも「顧客とのより深く、パーソナルな関係構築」は永遠のテーマだからです。ともすればテクノロジーの進化は、コミュニケーションの効率化や自動化ばかりに目が向きがちですが、このニュースは「人間同士のつながり」という本質にテクノロジーをどう活かすか、という重要な示唆を与えてくれます。
CtoCの世界で起きていることは、数年後のBtoBの未来を映す鏡とも言われます。今回はこの事例から、日本のBtoBマーケターが明日から活かせる3つの視点を考えてみましょう。
BtoBマーケティングに応用できる3つの視点
1. AIによる「顧客インサイト」の深化
OvertoneがAIを使って相性の良い相手を見つけようとするように、BtoBマーケティングでもAIを活用して「本当に自社と相性の良い顧客(ICP:Ideal Customer Profile)」を見つけ出し、そのインサイトを深く理解することが可能になります。
多くの企業では、MAやCRMに膨大な顧客データが蓄積されているはずです。しかし、そのデータを十分に活かせているでしょうか。AIを活用すれば、これまで人間では気づけなかったような行動パターンの相関関係や、顧客が発するシグナルを捉えることができます。
特に注目したいのが、Overtoneが掲げる「音声ツール」の活用です。オンライン商談やカスタマーサポートの通話記録は、顧客の生の声が詰まった宝の山。これらの音声データをAIで解析すれば、顧客が頻繁に使うキーワード、声のトーンから読み取れる感情、そして彼らが本当に抱えている「言葉の裏にある課題」まで浮き彫りになる可能性があります。これは、次のコンテンツ企画やプロダクト改善の非常に強力なヒントになるでしょう。
2. 「超パーソナライゼーション」へのシフト
「パーソナライゼーション」という言葉は、もはや目新しいものではありません。しかし、そのレベルはまだまだ発展途上と言えるのではないでしょうか。Overtoneが目指す「思慮深い(thoughtful)」つながりは、BtoBにおけるパーソナライゼーションの目指すべき方向性を示しています。
これからのパーソナライゼーションは、単に「〇〇株式会社 △△様」と名前を差し込んだり、役職でセグメントを切ってメールを送ったりするだけでは不十分です。顧客企業の業界動向、その担当者が最近SNSでシェアした記事、過去の問い合わせ内容などをAIが統合的に分析し、「なぜ今、あなたにこの情報をお届けするのか」という文脈まで含めてコミュニケーションを設計する「超パーソナライゼーション」が求められます。
例えば、「先日のウェビナーで〇〇という点にご関心をお持ちのようでしたので、関連するこちらの導入事例がお役に立つかと思いました」といった、一人ひとりの状況に寄り添ったアプローチです。これを人手で行うのは限界がありますが、AIをアシスタントとして活用することで、大規模かつ質の高いアプローチが現実的になります。
3. テクノロジー時代の「人間らしいコミュニケーション」の価値
逆説的ですが、AIをはじめとするテクノロジーが進化すればするほど、最後は「人間らしいコミュニケーション」の価値が際立ってきます。Overtoneがテキストだけでなく「音声」というアナログな要素を重視している点は、非常に示唆に富んでいます。
BtoBの購買プロセスは、高額かつ複雑で、合理的な判断だけでは動きません。最終的に意思決定を後押しするのは、営業担当者の人柄や、企業としての信頼感といった、ウェットな要素であることが少なくないのです。
だからこそ、私たちマーケターは効率化を追求する一方で、いかに「人」の温度感が伝わるコミュニケーションを設計するかを考え続ける必要があります。例えば、以下のような取り組みがより重要になるでしょう。
- ポッドキャスト配信:担当者の声や考え方を直接届ける
- インタラクティブなウェビナー:一方的な説明ではなく、参加者との対話を重視する
- 動画コンテンツ:製品の裏側や、社員の想いを伝えるストーリーテリング
AIはあくまで、人間同士のより良いコミュニケーションを「補助」するためのツールです。データ分析や定型業務はAIに任せ、人間はより創造的で、共感を呼ぶようなコミュニケーションに時間を注ぐ。この役割分担こそが、これからのBtoBマーケティングの鍵を握ると言えるでしょう。
まとめ:未来のBtoBマーケターに求められること
AIデートアプリのニュースから、未来のBtoBマーケティングのヒントを探ってみました。顧客を深く理解し、一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを、テクノロジーの力を借りて実現していく。この流れは、今後ますます加速していくはずです。
私たちBtoBマーケターに求められるのは、最新のテクノロジートレンドを追いかけるだけでなく、その根底にある「人々が何に価値を感じ、どのようにつながりたいと願っているのか」という普遍的な欲求を読み解く視点なのかもしれません。
まずは、自社の顧客データや商談記録の中に、どんな「声」が眠っているか、耳を傾けてみてはいかがでしょうか。そこに、次の一手につながるヒントが隠されているはずです。

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