米国務省で、標準フォントが「DEIすぎる」という理由で変更されたニュースが話題です。一見マーケティングとは無関係に思えるこの出来事から、実はBtoBにおけるブランディングやアクセシビリティの重要なヒントを学ぶことができます。あなたの会社の資料、本当にそのフォントで大丈夫ですか?
発端は米国務省の「フォント変更騒動」
こんにちは!BtoBマーケティング情報局の編集担当です。
先日、海外のテック系ニュースでちょっと面白い記事を見つけました。なんでも、米国のマルコ・ルビオ上院議員が国務省に対し、公式文書で使われていた「Calibri(カリブリ)」というフォントの使用を禁止し、代わりに「Times New Roman(タイムズ・ニュー・ローマン)」を指定した、というのです。
その理由がふるっていて、「CalibriはDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)すぎるから」だとか。なんでも、Calibriは視覚に障がいのある方でも読みやすいようにと、2023年に当時のDEI担当部署が導入を推奨したフォントだったそうです。これに対しルビオ氏は、「文書の品位とプロフェッショナリズムを取り戻す」ために、伝統的なTimes New Romanに戻すべきだと主張した、というわけです。
「たかがフォントで大げさな…」と感じる方もいるかもしれません。しかし、この一件は、私たちBtoBマーケティングに携わる者にとって、決して他人事ではない示唆に富んでいます。なぜなら、フォントは私たちが思っている以上に、企業のブランドイメージやメッセージを雄弁に物語るからです。
BtoBマーケティング担当者よ、「たかがフォント」と侮るなかれ
普段、提案書やブログ記事を作るとき、フォントをどれだけ意識していますか?「PCに最初から入っている游ゴシックをなんとなく…」「昔からの慣習でMS Pゴシックを…」という方も多いのではないでしょうか。しかし、その「なんとなく」の選択が、実は大きな機会損失や、意図しないブランド毀損に繋がっているとしたら…?
フォントが伝える「企業の顔」
今回の騒動で対立した2つのフォントを例に見てみましょう。
- Times New Roman:いわゆる「セリフ体」(日本語でいう明朝体)。新聞や書籍で古くから使われてきた書体で、「伝統」「権威」「信頼性」「格調高さ」といった印象を与えます。
- Calibri:こちらは「サンセリフ体」(日本語でいうゴシック体)。装飾がなくスッキリしており、Web画面でも読みやすいのが特徴です。「モダン」「親しみやすさ」「明快さ」「機能性」といったイメージを想起させます。
もしあなたの会社が、金融機関や士業事務所向けに「揺るぎない信頼性」をアピールしたいのであれば、Times New Romanのようなセリフ体(明朝体)が適しているかもしれません。逆に、スタートアップやIT企業向けに「革新性」や「スピード感」を伝えたいのであれば、Calibriのようなサンセリフ体(ゴシック体)の方がメッセージと一致するでしょう。
フォントは、いわば企業の「声」や「服装」のようなもの。重厚な信頼性を語るべき場面で、あまりに軽快でポップなフォントを使ってしまうと、ちぐはぐな印象を与えかねません。自社のブランドパーソナリティと、使っているフォントのイメージが一致しているか、一度見直してみてはいかがでしょうか。
アクセシビリティは「おもてなし」であり、ビジネス機会でもある
今回のニュースのもう一つの重要な論点が「アクセシビリティ」です。Calibriが「視覚障がいのある方でも読みやすい」という理由で選ばれた点は、非常に重要です。
BtoBマーケティングのコンテンツは、多種多様な立場の人に読まれる可能性があります。年齢、身体的な特徴、利用しているデバイスも様々です。誰にとっても情報が取得しやすいように配慮することは、企業の社会的責任という側面だけでなく、純粋なビジネス機会の損失を防ぐことにも繋がります。
例えば、こんな経験はありませんか?
- Webサイトの文字が小さすぎて、スマホで読むのを諦めた
- ダウンロードしたホワイトペーパーの背景色と文字色のコントラストが低く、目がチカチカして読む気が失せた
- デザインは綺麗だが、どこをクリックすればいいか分かりにくいWebサイト
これらはすべて、アクセシビリティの欠如が原因で、見込み客を逃している事例です。読みやすいフォントを選ぶことは、Webアクセシビリティの第一歩。ユニバーサルデザイン(UD)フォントなど、誰もが読みやすいように設計されたフォントを採用するのも一つの手です。これは特別な誰かのための対応ではなく、すべてのお客様に対する「おもてなし」の心であり、マーケティングの基本とも言えるでしょう。
無意識の選択がブランドを毀損する?
私が編集者として特に怖いと感じるのは、「意図せずブランドイメージを損なってしまう」ことです。特に日本では、長年Windowsの標準フォントだった「MS Pゴシック」が、今でも多くのビジネス資料で使われています。
もちろん、MS Pゴシックが絶対的に悪いわけではありません。しかし、デザインの専門家からは「字間が不揃い」「画面上では少し読みにくい」といった指摘もあり、Webが主流となった現代においては、やや古臭い印象を与えてしまう可能性があります。最新のテクノロジーを扱う企業が、資料のフォントだけ20年前のままだとしたら、顧客は無意識のうちに「この会社、本当に大丈夫かな?」と感じてしまうかもしれません。
「神は細部に宿る」と言いますが、ブランディングも同じです。顧客とのあらゆるタッチポイントで、一貫した質の高い体験を提供することが重要です。フォントという細部にまで気を配れる会社は、きっと製品やサービスの品質にもこだわっているだろう、と顧客は感じてくれるはずです。
明日からできる、フォント戦略の第一歩
では、具体的に何をすればいいのでしょうか。まずは、自社のマーケティング活動で使われているフォントを棚卸ししてみることをお勧めします。
- 現状把握:Webサイト、ブログ、ホワイトペーパー、提案書、広告バナーなどで、どんなフォントが使われているかリストアップしてみましょう。部署ごとにバラバラ、なんてこともよくあります。
- 目的の再確認:そのコンテンツは「誰に」「何を」伝えたかったのか、改めて考えてみます。
- 評価:使われているフォントは、その目的に合致しているでしょうか? ブランドイメージを正しく伝えていますか? 誰にとっても読みやすいでしょうか?
もし改善が必要だと感じたら、まずはWebサイトや次の提案書から、フォントを見直してみてはいかがでしょうか。最近では、Google Fontsなど、商用利用可能で高品質な無料フォントもたくさんあります。いくつか試してみて、自社のブランドに最もふさわしい「声」を見つけるのも、マーケターの腕の見せ所です。
まとめ
米国務省のフォント騒動は、一見すると海の向こうの政治的な話に聞こえます。しかし、その根底には「伝えるべきメッセージのために、最適な手段を選ぶ」という、マーケティングコミュニケーションの核心が隠されています。
私たちは日々、言葉を尽くして顧客にメッセージを届けようと奮闘していますが、その言葉を乗せる「器」であるフォントにも、同じくらいの注意を払う価値があるのではないでしょうか。この機会に、自社の「声」となるフォントについて、ぜひ一度見直してみてください。きっと、新しい発見があるはずです。

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