先日、韓国のEC大手Coupangで国民の半数以上に影響が及ぶ大規模なデータ漏洩事件が発生し、CEOが辞任する事態となりました。これは決して対岸の火事ではなく、顧客の「信頼」を第一に考えるべき日本のBtoBマーケターにとっても、自社の体制を再点検する重要なきっかけとなるはずです。
衝撃のニュース:韓国ECの巨人が揺るがした「個人情報」の価値
先日、テック系のニュースサイトで衝撃的な見出しが目に飛び込んできました。韓国の巨大リテール企業Coupangで大規模なデータ漏洩が発生し、その影響はなんと韓国の人口の半分以上に及ぶというのです。事態の深刻さから、同社のCEOは辞任に追い込まれました。
「BtoCのECサイトの話でしょ?」「うちはBtoBだから関係ない」
もしかしたら、そう感じた方もいるかもしれません。しかし、私はこのニュースを見て、真っ先に日本のBtoBマーケティングに携わる方々の顔が思い浮かびました。なぜなら、この一件は、私たちが日々扱っている「データ」の重みと、それを失ったときの代償の大きさを、これ以上ないほど明確に突きつけているからです。
なぜBtoBマーケターがセキュリティを「自分ごと」と捉えるべきなのか?
BtoBビジネスの根幹は、なんと言っても顧客との長期的な「信頼関係」です。製品やサービスの品質はもちろんのこと、「この会社なら安心して取引できる」という信頼があってこそ、ビジネスは成り立ちます。データ漏洩は、この信頼を根底から破壊する行為に他なりません。
失うのはデータではなく「顧客からの信頼」
私たちがMAツールやCRMで管理しているデータは何でしょうか? それは単なる文字列の羅列ではありません。企業の担当者名、役職、メールアドレス、電話番号、そして過去の商談履歴…。一つひとつが、時間と労力をかけて築き上げてきた顧客との関係性の証です。
もし、自社が預かっている大切な顧客リストが外部に流出してしまったら…? 考えるだけでも恐ろしいですが、失うのはデータそのものだけではありません。競合に顧客情報が渡る直接的な被害はもちろん、「情報管理がずさんな会社」というレッテルが貼られ、築き上げてきたブランドイメージと顧客からの信頼は一瞬で地に落ちてしまいます。
マーケティング活動そのものが停止するリスク
インシデントが発生した場合、その影響は信頼やブランドイメージといった間接的なものに留まりません。原因究明と再発防止策が完了するまで、多くの場合、マーケティング活動は完全にストップせざるを得なくなります。
メルマガ配信、新規リード獲得のためのWeb広告、オンラインセミナーの開催…。これらすべてが停止するだけでなく、最悪の場合、顧客への説明やお詫びに奔走する日々が続くことになります。これでは、本来注力すべき「攻めのマーケティング」どころではありません。
明日からできる、マーケターのためのセキュリティ対策
「セキュリティは専門部署の仕事」と考える時代は終わりました。特に、顧客データを最も身近に扱うマーケティング部門こそ、主体的にセキュリティ意識を高める必要があります。専門的な知識がなくとも、明日から実践できることはたくさんあります。
1. 担当部署とのコミュニケーションを密にする
まずは、自社の情報システム部門やセキュリティ担当者と話す機会を設けましょう。「最近、マーケティング部でこんなツールを導入検討しているんだけど、セキュリティ面で気をつけることは?」「インシデントが起きたときって、最初の報告は誰にすればいいんだっけ?」といった、素朴な疑問をぶつけてみるだけでも大きな一歩です。彼らはプロフェッショナルとして、きっと有益なアドバイスをくれるはずです。
2. 利用ツールの権限設定を見直す
現在利用しているMA、SFA、CRMなどのクラウドツール。そのアクセス権限は適切に設定されていますか? 退職したメンバーのアカウントが残ったままになっていたり、本来は必要のないメンバーに管理者権限が付与されていたりしないでしょうか。定期的に棚卸しを行い、アカウントを「最小権限の原則」で見直すことが、内部からの情報漏洩リスクを低減させます。
3. 外部委託先の管理体制を確認する
イベント運営を委託する代理店、Web広告の運用パートナーなど、外部の企業に顧客データを渡す機会は意外と多いものです。その際、委託先がどのようなセキュリティ体制でデータを管理しているか、きちんと確認していますか? 契約書に機密保持条項(NDA)を盛り込むのはもちろん、可能であれば、データの取り扱いに関する具体的なルールについて一度話し合っておくと、より安心です。
まとめ:信頼を築くマーケティングの土台は「守り」の意識にあり
今回のCoupangの事件は、私たちBtoBマーケターに重い教訓を投げかけています。それは、どれだけ優れたマーケティング施策を企画・実行しても、その土台となるセキュリティが脆弱であれば、すべてが砂上の楼閣になりかねない、ということです。
顧客データを預かるということは、顧客の信頼を預かることと同義です。攻めの施策に目を奪われがちですが、今一度、足元である「守り」の部分に目を向け、自社のデータ管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。その地道な取り組みこそが、真に顧客から信頼される企業への第一歩となるはずです。

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