先日、インドのEコマーススタートアップ「Meesho」が見事なIPOを果たし、市場を驚かせました。この成功の裏には、巨大企業が見過ごしていた特定の顧客層への徹底したアプローチがあります。一見遠い国の話に聞こえますが、実は日本のBtoBマーケターが学ぶべきヒントが満載なのです。
インド市場を席巻する「Meesho」とは何者か?
2025年12月、インド発のソーシャルコマースプラットフォーム「Meesho」が上場し、その株価は初日に一時46%も高騰するなど、投資家から熱狂的な歓迎を受けました。TechCrunchの報道によれば、この成功は「小規模事業者」と「価格に敏感な消費者」という、これまでEコマースの恩恵を十分に受けられていなかった層をがっちり掴んだ結果だと分析されています。
皆さんは「ソーシャルコマース」と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。Meeshoの仕組みは非常にユニークです。一言でいえば、「誰もが元手ゼロでオンラインショップのオーナーになれる」プラットフォーム。特に地方の主婦などが、Meeshoに登録されている商品を自分のSNS(主にWhatsApp)で友だちや知人に紹介し、売れたらマージンを得られるというモデルです。
AmazonやFlipkartといった巨人が都市部のユーザーをターゲットにする中、Meeshoはインドの地方都市(Tier2、Tier3と呼ばれる)に住む人々、そして彼らと繋がる小規模な販売者(リセラー)に徹底的にフォーカスしました。これが、今回の成功の最大の鍵と言えるでしょう。
Meeshoの成功から日本のBtoBマーケターが学ぶべき3つの視点
「なるほど、インド市場の話は面白いけど、うちのBtoBビジネスとは関係ないな…」と思われた方もいるかもしれません。しかし、私はこのMeeshoの戦略にこそ、今の日本のBtoBマーケティングが抱える課題を突破するヒントが隠されていると考えています。具体的に3つの視点で見ていきましょう。
1. 「巨大なニッチ」は、まだ足元に眠っている
BtoBマーケティングというと、つい「従業員1000名以上のエンタープライズ企業」や「都心部のIT企業」といった、いわゆる“王道”のターゲットを狙いがちです。しかし、Meeshoが巨大EC企業が見過ごしていた地方市場に活路を見出したように、私たちの周りにもまだ光が当たっていない「巨大なニッチ市場」が存在するのではないでしょうか。
例えば、以下のようなセグメントはどうでしょう。
- 地方の中小製造業の工場長
- 伝統的な業界(建設、運輸など)で働く、ITツールに不慣れなベテラン担当者
- 特定の専門資格を持つフリーランス(士業、デザイナーなど)
こうした層は、一見するとアプローチが難しく、市場規模も小さく見えるかもしれません。しかし、彼らが抱える特有の課題は深く、一度信頼を勝ち取れば非常にロイヤルな顧客になり得ます。大手が見過ごしている、あるいはアプローチしきれていないセグメントにこそ、ブルーオーシャンが広がっている可能性は高いのです。
2. 高機能より「これなら私でもできる」というシンプルさ
Meeshoの成功要因の一つは、テクノロジーの力で「誰でも簡単に」ビジネスを始められるようにした点です。複雑なECサイト構築の知識は一切不要。スマホ一つで、商品の仕入れから顧客への販売、発送まで完結します。
これはBtoBのSaaS製品にも通じる話です。私たちはつい、競合に勝つために機能を追加し、何でもできる「万能ツール」を目指してしまいがちです。しかし、ITに不慣れな担当者にとって、多機能さはかえって導入のハードルを上げてしまいます。
彼らが本当に求めているのは、「請求書発行の“あの”面倒な作業だけを自動化したい」「チームの“あの”報告書のやり取りだけを楽にしたい」といった、極めて具体的な課題の解決です。Meeshoのように、特定の課題を驚くほどシンプルに解決する。「これなら私でもできそう」と思わせるUXとメッセージングが、ニッチ市場を攻略する強力な武器になります。
3. 信頼の連鎖を生む「コミュニティ」の力
Meeshoのソーシャルコマースは、友人や知人からの紹介という「信頼」をベースに成り立っています。知らない企業広告よりも、身近な人からの「これ、すごく良いよ」という一言のほうが、購入の決め手になる。これは、高額なBtoB商材であればなおさらです。
これからのBtoBマーケティングは、単にリードを獲得して営業に渡すだけでは不十分です。既存顧客を巻き込み、彼らが新たな顧客を呼んでくれるような「コミュニティ」をいかに作るかが重要になります。
- ユーザー会や勉強会を定期的に開催し、成功事例を共有してもらう
- 導入事例インタビューで、担当者の“生の声”を積極的に発信する
- 紹介プログラム(リファラル)を整備し、顧客が顧客を呼ぶ仕組みを構築する
こうした活動を通じて生まれる信頼の連鎖は、広告費をかけて獲得するリードよりも遥かに質が高く、ビジネスを安定的に成長させる原動力となるでしょう。
まとめ:視点を変えれば、市場はまだ無限に広がっている
インドのEコマース市場で起きたMeeshoの快進撃は、遠い国のサクセスストーリーではありません。市場の“ど真ん中”ではなく、あえて“ど真ん中”から少しズレた場所にいる人々の課題に真摯に向き合った結果です。
私たちのビジネスにおいても、同じことが言えるはずです。今一度、自社のターゲット設定を見直し、まだ十分に価値を届けられていない人たちはいないか、探してみてはいかがでしょうか。巨人が気づいていない宝の山は、案外あなたのすぐそばに眠っているのかもしれません。

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