先日、Amazonから発表されたKindle電子書籍に関する方針変更。一見、自分には関係ないニュースだと思っていませんか?実はこの動き、BtoBマーケターが取り組むホワイトペーパー戦略の未来を考える上で、非常に重要なヒントが隠されているんです。
発端はAmazonの小さな(でも重要な)方針変更
先日、海外のIT系メディアでこんなニュースが報じられました。Amazonが、同社のセルフ出版サービス「Kindle Direct Publishing (KDP)」で、著作権保護技術(DRM)を適用しない電子書籍について、今後は汎用性の高いPDFやEPUB形式で提供するというのです。
「DRM?EPUB?…なんだか難しい話だな」と感じるかもしれませんね。ものすごくシンプルに言うと、「専用のKindleアプリや端末がなくても、誰でも、どんなデバイスでも簡単に読めるようになり、友人や同僚との共有も楽になる」ということです。
これまでは、Kindleの本はKindleのエコシステムの中で読むのが基本でした。しかし今回の変更は、その囲いを少しだけ取り払い、コンテンツをよりオープンに、自由に流通させようというAmazonの意思表示と捉えることができます。そしてこの「オープンにする」という考え方こそ、私たちBtoBマーケターが今、改めて向き合うべきテーマなのです。
なぜ今「共有しやすさ」が重要なのか?BtoBマーケティングへの示唆
さて、ここからが本題です。このAmazonの動きを、私たちのBtoBマーケティング、特にホワイトペーパーやeBookといったコンテンツ施策にどう活かせるでしょうか。
ホワイトペーパーは「閉じる」べきか、「開く」べきか
これまで、BtoBマーケティングにおけるコンテンツ配布の王道は、「フォーム入力と引き換えにPDFをダウンロードしてもらう」という手法でした。これは、見込み客の情報を確実に獲得するための、いわば「閉じた」戦略です。もちろん、この手法がリードジェネレーションにおいて非常に有効であることは間違いありません。
しかし、この手法にはいくつかの課題もあります。
- フォーム入力が面倒で、ダウンロードをためらう人がいる(機会損失)
- ダウンロードした本人しか読まず、組織内で共有されにくい(情報のサイロ化)
- 有益な情報なのに、検索エンジンに見つけてもらえない(SEO機会の損失)
私も編集者として日々感じることですが、せっかく時間とコストをかけて作った渾身のコンテンツが、一人の担当者のPCに眠ったままになっているのは、非常にもったいない話です。
「共有」がもたらす思わぬリード獲得
AmazonがDRMフリーという選択肢を広げたのは、コンテンツが「共有」されることの価値を理解しているからに他なりません。良質なコンテンツは、人の手を介して自然と広がっていきます。
これをBtoBの現場に置き換えてみましょう。例えば、あるITツールの比較資料を現場担当者のAさんがダウンロードしたとします。その資料が非常に分かりやすく、説得力があったらどうなるでしょう?
Aさんは、きっと上司であるB部長に「こんな資料がありました」とメールで共有するはずです。さらにB部長は、導入の意思決定に関わる関連部署のC課長にも「参考までに」と転送するかもしれません。
もしこの資料がパスワードで保護されていたり、特殊な形式だったりしたら、この「共有の連鎖」は起こりにくくなります。最初にフォーム入力してくれたAさんのリード情報は獲得できますが、その先にいるかもしれない、より決裁権限に近いB部長やC課長の存在には気づけません。コンテンツを「開く」ことで、こうした思わぬリード獲得のチャンスが生まれるのです。
すぐに実践!BtoBコンテンツ配布の新しい選択肢
「そうは言っても、いきなり全てのコンテンツをオープンにするのは、リードが取れなくなりそうで怖い…」という方も多いでしょう。ご安心ください。既存の戦略を全て捨てる必要はありません。既存のやり方にプラスアルファで試せる、新しい選択肢を3つご紹介します。
1. 「お試し版」としてコンテンツの一部を公開する
まずは、ホワイトペーパーの「目次」や「はじめに」の章だけを、誰でも読めるブログ記事として公開してみましょう。記事の最後で「この続きや、より詳細なデータは、こちらから無料でダウンロードできます」と、フォーム付きのLPへ誘導するのです。これにより、コンテンツの魅力を広く伝えつつ、質の高いリードを獲得するという、両方の目的を達成しやすくなります。
2. PDFの代わりにインタラクティブなWebページを用意する
ダウンロードという一手間をなくし、コンテンツそのものをWebページ(記事や特設LP)として公開するのも非常に有効です。URLをコピーするだけで誰にでも共有できますし、SNSでの拡散も期待できます。さらに、Googleなどの検索エンジンにも評価されやすくなるため、SEOの観点からも大きなメリットがあります。ページ内にCTAボタンを適切に配置すれば、そこからセミナー申し込みや問い合わせに繋げることも可能です。
3. 共有を促す「仕組み」をコンテンツに埋め込む
従来通りPDFで配布する場合でも、工夫の余地はあります。例えば、資料のフッター部分に「この記事を同僚にメールで教える」といったリンクや、SNSのシェアボタンを設置しておくのです。また、「この資料が役立つと感じたら、ぜひチームの皆様とご共有ください」といった一文を添えるだけでも、共有への心理的ハードルはぐっと下がります。
まとめ:コンテンツの価値を最大化するために
今回のAmazonの方針変更は、コンテンツのあり方が「所有・管理」から「流通・共有」へとシフトしている時代の流れを象徴しています。私たちBtoBマーケターも、作ったコンテンツをただ「渡して終わり」にするのではなく、いかに多くの人の目に触れさせ、議論のきっかけにしてもらうか、という視点を持つことがますます重要になるでしょう。
リード獲得という短期的な目標を追いながらも、中長期的にはコンテンツが独り歩きして、自社の価値を広めてくれる。そんな理想的な状態を目指して、まずはコンテンツを少しだけ「開いて」みることから始めてみてはいかがでしょうか。

コメント