X(旧Twitter)やMetaが認証バッジの有料化を進める中、巨大掲示板Redditが「本物の著名人」に限定した認証バッジのテストを開始しました。この動きは、SNSにおける「信頼性」の価値を問い直すものであり、日本のBtoBマーケティングにおける権威性の示し方にも大きなヒントを与えてくれます。
有料化の波と一線を画す、Redditの新たな試み
SNSのタイムラインに、青いチェックマークを付けたアカウントが急に増えたと感じることはありませんか?X(旧Twitter)やMeta(Instagram/Facebook)が相次いで導入したサブスクリプションサービスにより、今や認証バッジは「月額料金を支払えば誰でも手に入れられる」ものになりました。
もちろん、本人確認としての意味合いはありますが、かつてのような「公的な著名人であることの証」としての希少性や権威性は薄れつつあります。まるで、レストランの星評価が誰でもお金で買えるようになってしまったような、そんな信頼性の揺らぎを感じている方も少なくないでしょう。
そんな中、海外の巨大掲示板サイトRedditが、この流れに逆行するような興味深いテストを開始したというニュースが飛び込んできました。TechCrunchが報じたところによると、Redditは現在、一部のユーザーを対象に「認証バッジ」のテストを行っているとのこと。しかし、その対象はXやMetaのように料金を支払ったユーザーではありません。対象となるのは「実際に著名な人物(notable figures)」に限定されるというのです。
個人的には、この流れは非常に健全だと感じています。情報が溢れかえるデジタル空間において、「誰が」その情報を発信しているのかという点は、受け手にとって極めて重要です。Redditのこの決断は、単なるSNSの機能変更に留まらず、デジタルにおける「信頼」や「権威」のあり方を根本から見直すきっかけになるかもしれません。
なぜ今、「本物の権威性」がBtoBで重要なのか?
さて、このRedditの動きを、私たち日本のBtoBマーケティング担当者はどう捉えるべきでしょうか。一見すると、海外の一プラットフォームの話で、直接的な関係は薄いように思えるかもしれません。しかし、この背景にある「本物志向」への回帰は、BtoBマーケティングの根幹をなす「信頼の構築」というテーマに直結します。
BtoBマーケティングにおける「信頼のシグナル」
ご存知の通り、BtoB商材は高額で、導入の検討期間も長く、複数の部署が関わる複雑な購買プロセスをたどります。顧客は、製品の機能や価格といったスペック情報だけでなく、「この企業は信頼できるか?」「この担当者は専門知識を持っているか?」といった点をシビアに評価します。
ここで重要になるのが、GoogleがSEOで重視する「E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)」という考え方です。質の高いコンテンツを発信し続けることはもちろん、そのコンテンツが「誰によって」書かれ、監修されているのかが、顧客の信頼を勝ち取る上で決定的な差を生むのです。
SNSの認証バッジがその信頼のシグナルの一つだったわけですが、有料化によってその機能が薄れた今、私たちは別の方法で「本物の権威性」を示していく必要に迫られています。
「誰でも発信できる」時代のジレンマ
情報発信のハードルが下がったことで、誰もが自社の専門知識を世界に届けることができるようになりました。これは素晴らしいことですが、同時に情報のノイズが増大し、顧客が本当に価値のある情報を見つけ出すのが難しくなっているという側面もあります。
顧客は、企業の公式発表や美しくまとめられた導入事例だけでなく、その分野で実際に汗をかいている専門家個人の生の声や、信頼できる第三者からの評価を求めています。Redditの「本物の著名人」に限定した認証は、まさにこうした時代の要請に応える動きと言えるでしょう。
日本のBtoBマーケ担当者が今からできる3つのこと
では、この大きな潮流を踏まえ、私たちは日々のマーケティング活動に何を取り入れていけば良いのでしょうか。すぐに実践できる3つのアクションをご紹介します。
1. 社内の「専門家」をスターにする
あなたの会社には、特定の領域で誰にも負けない知識や経験を持ったエンジニア、営業、カスタマーサクセスの担当者が必ずいるはずです。彼ら・彼女らを「社内のスター」として、積極的に表舞台に出していきましょう。
具体的には、個人名義での技術ブログの執筆、ウェビナーへの登壇、業界イベントでの発表などを会社としてサポートするのです。いわゆる「従業員アドボカシー」の考え方ですね。企業アカウントからの発信よりも、顔の見える個人からの専門的な発信のほうが、顧客の深い信頼を得やすいことは言うまでもありません。
2. コミュニティに「貢献」する
Redditが巨大なコミュニティプラットフォームであることは示唆に富んでいます。BtoBマーケティングにおいても、自社の製品を売り込む場としてではなく、業界全体を盛り上げる「貢献者」としてコミュニティに関わることが、結果的に大きな信頼につながります。
例えば、業界特化のオンラインフォーラムや勉強会で積極的に知見を共有したり、ユーザーコミュニティを立ち上げて顧客同士の交流を促進したりする活動です。一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションを通じてコミュニティに貢献することで、企業としての「信頼残高」が着実に積み上がっていきます。
3. コンテンツの「一次情報性」を追求する
最終的に、最も揺るぎない権威性の源泉となるのは、コンテンツそのものの質です。どこかの受け売りや一般論をまとめただけの記事ではなく、自社でしか発信できない情報にこそ価値があります。
例えば、独自の市場調査データ、顧客への詳細なヒアリングに基づくインサイト、製品開発の裏側で得られた失敗談など、生々しい「一次情報」を盛り込んだコンテンツは、他社には決して真似できません。こうしたコンテンツを地道に作り続けることが、「この会社は本物の専門家集団だ」という何よりの証明になります。
まとめ
Redditの認証バッジのテストは、単なる機能追加のニュースではありません。それは、デジタル社会における「信頼」の価値が改めて見直されていることを示す、象徴的な出来事です。
BtoBマーケティングの世界では、この「信頼」こそがビジネスの生命線です。小手先のテクニックや、誰でも手に入れられる見せかけの権威に頼るのではなく、社内の専門家を育て、コミュニティに貢献し、質の高いコンテンツを発信し続ける。そんな王道ともいえる活動の重要性が、今、改めて増しているのではないでしょうか。

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