米国のバイオテク企業が、放置された油井をクリーンな水素工場に変える驚きの技術を発表し、話題を呼んでいます。一見、遠い国のエネルギー問題に見えますが、この事例には日本のBtoBマーケターが学ぶべき「価値の再定義」という重要なヒントが詰まっています。自社の眠っている資産を呼び覚まし、新たな市場を切り拓くための発想法を一緒に見ていきましょう。
厄介者から宝の山へ。休眠油井を水素工場に変えるEclipse Energy社
先日、米TechCrunchで非常に興味深いニュースが報じられました。バイオテクノロジーのスタートアップであるEclipse Energy社が、なんと微生物を使って休眠中あるいは放置された油井を「水素工場」に変える技術を開発したというのです。
石油を掘り終えた油井は、その後どうなるかご存知でしょうか。実は、放置すれば環境汚染のリスクがあり、適切に閉鎖するにも莫大なコストがかかる、いわば「負の資産」でした。油井の所有者にとっては、頭の痛い問題だったわけです。
Eclipse Energy社の技術は、この厄介者である休眠油井に特殊な微生物を注入することで、地下に残った原油や有機物を分解させ、クリーンなエネルギー源である水素を生成させるというもの。既存の設備をほぼそのまま活用できるため、低コストで水素を製造できる可能性があるといいます。放置コストがかかるだけの場所が、新たな収益源に生まれ変わる。まさにコロンブスの卵的な発想ですよね。
このニュース、なぜ日本のBtoBマーケターに関係があるのか?
「なるほど、すごい技術だけど、エネルギー業界の話でしょ?」
そう思われた方も多いかもしれません。しかし、私はこのニュースに、あらゆる業界のBtoBマーケターにとって示唆に富んだ、重要なヒントが隠されていると考えています。それは、「既存資産の価値を再定義し、新しいストーリーを創造する」という視点です。
ここからは、この事例から私たちが学べる3つのマーケティングのヒントを深掘りしていきましょう。
ヒント1:社内に眠る「休眠資産」を再発掘する
あなたの会社にも「休眠油井」はありませんか?
もちろん、本物の油井である必要はありません。ここで言う「休眠油井」とは、社内に存在しているにもかかわらず、その価値が十分に見出されていない、あるいは忘れ去られている資産のことです。
例えば、
- 昔開発したけれど、事業化されずにお蔵入りになった技術
- 特定の顧客にしか使われていない、非常にニッチな製品や機能
- 長年蓄積されてきたものの、活用しきれていない膨大な顧客データや稼働データ
これらはすべて、見方を変えれば新たな価値を生み出す可能性を秘めた「休眠資産」です。Eclipse Energy社が「コストのかかる厄介者」という油井の常識を疑い、「水素を生み出すポテンシャル」を見出したように、私たちマーケターも自社の資産を固定観念で見つめるのをやめる必要があります。
マーケターの仕事は、すでにある製品の価値を顧客に伝えるだけではありません。時には開発部門や営業部門と深く対話し、既存の資産に新しい光を当て、価値を「再定義」し、新たな市場に向けたストーリーを紡ぎ出すことこそが、求められる役割なのです。
ヒント2:「社会課題の解決」をビジネスの推進力にするストーリー
Eclipse Energy社のビジネスモデルが秀逸なのは、単に新しいエネルギーを作れる点だけではありません。「放置油井による環境問題」という社会課題を解決しながら、同時に「クリーンエネルギーの創出」という新たな価値を生み出している点にあります。
これは、現代のBtoBマーケティングにおいて非常に強力な武器となる「パーパス・ドリブン」なアプローチそのものです。
「我が社の製品はSDGsに貢献しています」とウェブサイトに一行加えるだけでは、もはや顧客の心は動きません。大切なのは、自社のビジネスの「ど真ん中」で、どのように社会課題と向き合い、それを解決しようとしているのか。そのプロセスや情熱を、具体的なストーリーとして語ることです。
BtoBの購買担当者も、結局は一人の人間です。価格や機能だけでなく、「この会社は社会を良くしようとしている」「この製品を選ぶことで、自社も社会貢献につながる」といった共感が、最終的な意思決定を後押しするケースは確実に増えています。
ヒント3:顧客の「不」を起点に新しい市場を創造する
最後に、彼らが誰のどんな課題を解決しようとしたのか、という点に注目してみましょう。
Eclipse Energy社がアプローチしているのは、油井の所有者です。彼らはもともと「クリーンな水素が欲しい」と思っていたわけではありません。彼らのリアルな悩みは、「この使わない油井をどうしよう…。維持コストもかかるし、環境規制も厳しくなるし…」という、極めて現実的な『不』(不満、不安、不便)でした。
この技術は、その『不』を「新たな収益源」という全く新しい価値で解消するソリューションとして提示されています。だからこそ、油井の所有者にとって非常に魅力的に映るのです。
私たちBtoBマーケターも、自社の製品や技術を「これは何ができますか?(What)」という機能起点で語りがちです。しかし、本当に市場を動かすのは、「これは誰のどんな『不』を解消できますか?(Who/Why)」という顧客課題起点の視点です。顧客自身も気づいていない、あるいは解決を諦めている「不」を見つけ出し、そこから逆算して自社資産の新たな使い道を考える。それが、ブルーオーシャンを切り拓く鍵となります。
まとめ:あなたの会社の「休眠油井」はどこにありますか?
今回は、休眠油井を水素工場に変えるという米国のスタートアップの事例から、私たちBtoBマーケターが学べるヒントを考えてきました。
- 社内に眠る「休眠資産」に新しい光を当てる
- 「社会課題の解決」をビジネスの強力なストーリーにする
- 顧客の根源的な「不」から新しい市場を考える
Eclipse Energy社の挑戦は、テクノロジーの進化だけでなく、マーケティングにおける「視点の転換」がいかに重要であるかを、私たちに雄弁に語りかけてくれます。
この記事を読み終えたら、ぜひコーヒーでも片手に、あなたの会社の「休眠油井」、つまり見過ごされている価値について考えてみてはいかがでしょうか。思わぬところに、次の大きなビジネスチャンスが眠っているかもしれません。

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