営業パイプラインをきれいに可視化しようとすると、どうしても専用のCRMツールが頭に浮かびます。
でも現場を見ると、いまだに「Google スプレッドシートとExcelがメイン」というチームも多いはずです。
ツールを変える前に、まずは今あるスプレッドシートやExcelを“ちゃんとしたパイプライン管理表”にしてしまった方が早いこともあります。
ここでは、Google スプレッドシートやExcelで営業パイプラインを可視化する手順と、運用のコツをまとめます。
営業パイプラインを「表」に落とし込む考え方
最初に決めたいのは、次の2つだけです。
- 1行=1案件(商談)
- 列=その案件について知りたい情報
あれもこれも入れたくなりますが、最初から詰め込みすぎると誰も更新しなくなります。
まずは「案件の状態」と「売上予測」に必要な最小限に絞って始めましょう。
たとえば、こんな項目からスタートすると扱いやすくなります。
- 担当者
- 顧客名(会社名)
- 担当者名(相手)
- 案件名
- フェーズ(見込み・提案中・見積提出・最終調整・受注・失注 など)
- 金額(受注したら入る金額)
- 予測確度(%)
- 受注予定日
- 発生チャネル(紹介・問い合わせ・セミナー・展示会 など)
- 最終コンタクト日
- メモ
ここまでできれば、あとは「どう切って見るか」を工夫していくだけです。
フェーズと確度を“選択式”にしてブレをなくす
パイプライン可視化で一番ブレやすいのが「フェーズ」と「確度」です。
人によって書き方が変わると、集計したときにグチャグチャになってしまいます。
フェーズはプルダウンで選択させる
Google スプレッドシートなら「データの入力規則」、Excelなら「データの入力規則」で、選択式にしてしまいましょう。
例:
- 新規リード
- 初回ヒアリング
- 提案・見積中
- 最終調整
- 受注
- 失注
ラジオボタンのようにキレイにしすぎる必要はありません。
「営業メンバー全員が、なんとなく同じイメージで選べるか」を基準に決めると運用しやすくなります。
予測確度は段階を決めておく
確度も自由入力にすると、「80%」「8割」「高め」「かなり高い」など、バラバラになりがちです。
ここも選択式にしてしまうのがおすすめです。
例:
- 20%:情報収集中、まだ動くか不明
- 40%:課題・予算が見えてきた
- 60%:提案済み、競合あり
- 80%:最終調整中、条件が合えば決まりそう
- 100%:受注確定、契約待ち
こうしておくと、「確度×金額」で“受注見込み売上”も計算しやすくなります。
「受注見込み金額」を計算する
パイプラインを可視化するうえで、とてもわかりやすい指標が「受注見込み金額」です。
- 金額列:たとえば「500,000」
- 確度列:たとえば「0.6」(60%)
と入れておけば、
- 受注見込み金額 = 金額 × 確度
で1行ごとに見込み売上を出せます。
Google スプレッドシートでもExcelでも、通常の掛け算でOKです。
= 金額セル * 確度セル
この列をつくっておくと、
- 今月・来月の見込み売上
- 担当者ごとの見込み売上
- フェーズごとの滞留金額
などを、あとから自由に集計できます。
一覧表を「色」と「並び替え」で見やすくする
まずは、一覧を見ただけで状態がパッと分かるようにします。
フェーズごとに色分けする(条件付き書式)
- フェーズが「受注」なら淡い緑
- 「失注」ならグレー
- 「最終調整」ならオレンジ
- 「提案・見積中」なら青
といったように、フェーズの値に応じて行全体を色分けすると、パッと見で“今どこが多いか”が分かるようになります。
Google スプレッドシートなら「表示形式 → 条件付き書式」、Excelなら「ホーム → 条件付き書式」から設定できます。
受注予定日が過ぎている案件を赤くする
追いかけ漏れを防ぐために、「受注予定日が今日より前なのに、まだ受注でも失注でもない案件」を赤くするのも定番です。
条件イメージ:
- 条件:受注予定日 < 今日
- かつ フェーズ が「受注」「失注」以外
こうしておくと、「約束した日を過ぎているのに放置されている案件」が一目で分かります。
別シートで「ダッシュボード」をつくる
一覧表を作ったら、次は「見るための画面」を用意します。
同じファイル内に「Dashboard」や「集計」などのシートを作って、管理画面にしてしまうイメージです。
よく使うのは、次のような集計です。
- フェーズ別の案件数と金額
- フェーズ別の受注見込み金額
- 担当者別の見込み売上
- 月別の受注見込み金額(今月・来月・再来月)
Google スプレッドシートでもExcelでも、ピボットテーブル(ピボットテーブルレポート)を使うと簡単に作れます。
例:フェーズ別パイプライン金額
- 行:フェーズ
- 値:金額の合計 または 受注見込み金額の合計
これを棒グラフや積み上げ棒グラフにすると、「どのフェーズにどれくらいお金が溜まっているか」がひと目で分かるようになります。
例:月別の受注見込み金額
- 行:受注予定月(2025/11、2025/12…)
- 値:受注見込み金額の合計
これを折れ線グラフにすると、「売上予測の山」が見えてきます。
経営層やマネージャーが知りたいのは、まさにここです。
Google スプレッドシートならではの便利な工夫
クラウド前提のスプレッドシートなら、チームでの運用がしやすくなります。
フィルタビューで「自分だけの見え方」を持てる
Google スプレッドシートの「フィルタビュー」は、各自が自分用のフィルタ・並び順を持てる機能です。
- 自分は「自分担当の案件だけ」を
- マネージャーは「今月中に決まりそうな案件だけ」を
といった具合に、同じ表を見ながらも、各自が見やすい形で確認できます。
コメント機能で案件ごとのやりとりを残す
案件行のセルにコメントを付けて、
- 「ここは競合A社と比較されている」
- 「価格調整済、来週再提案予定」
といったメモを残しておくと、後から状況を追いやすくなります。
Excelならではの見せ方
オンプレミス環境や、まだExcel中心の会社でも、少し工夫するだけで見え方はグッと良くなります。
テーブル+スライサーでクリック集計
Excelの「テーブル」と「スライサー」を組み合わせると、
フェーズや担当者をボタン感覚で切り替えて一覧を絞り込めます。
- フェーズ用スライサー
- 担当者用スライサー
を作っておけば、マネージャーが会議中に「この担当者の案件だけ見せて」といったことも簡単です。
ピボットグラフで簡易ダッシュボード
ピボットテーブルに「ピボットグラフ」を組み合わせて、1枚のシートをダッシュボードにしておくと、
Excelファイルを開くだけで、パイプラインの全体像が確認できるようになります。
最後は「運用ルール」がパイプラインの質を決める
どれだけきれいなシートを作っても、更新されなければ意味がありません。
シートの設計と同じくらい大事なのが、運用ルールです。
たとえば、こんなルールを決めると回りやすくなります。
- 更新タイミング
- 毎日営業終了後に1回
- 週次の営業会議前に必ず最新化 など
- 「アポが入ったら」「見積を出したら」「受注が決まったら」など、フェーズ変更のタイミング
- 入力必須項目(最低限どこまで埋めたら“案件として登録”とみなすか)
完璧さを求めすぎると誰も更新しなくなります。
最初は「金額・フェーズ・受注予定日だけは必ず入れる」くらいの最低ラインから始めて、少しずつ項目を増やしていく方がうまくいきます。
スプレッドシート/Excelの限界と、その先にあるもの
スプレッドシートやExcelでも、ここまでやれば「パイプラインの可視化」という意味ではかなり戦えます。
一方で、次のような課題が見え始めたら、専用CRMツールを検討するサインです。
- 案件数が多すぎてシートが重くなる
- メールやカレンダーの履歴をシートに手で貼るのがつらい
- 権限管理(誰にどこまで見せるか)が細かくなってきた
- 顧客情報や問い合わせ情報が、別のシートやツールに分散している
逆に言えば、最初から完璧なツールを選ぼうとせず、
- まずはスプレッドシート/Excelで「自社のパイプラインの型」を決める
- その型が一通り回り始めてから、必要に応じてCRMに移行する
という順番の方が、多くのチームではスムーズです。
まとめ
- 営業パイプラインは「1行=1案件」「列=状態と予測」に落とし込めば、スプレッドシートやExcelでも十分表現できる
- フェーズと確度を選択式にしてブレを減らすと、集計や見える化が格段にやりやすくなる
- 条件付き書式・ピボットテーブル・グラフを組み合わせて、別シートに簡易ダッシュボードを作ると、マネージャーにも伝わりやすい
- 最終的な成否を分けるのは「どんなシートを作るか」よりも「どう運用して、どこまで更新を続けられるか」
今のシートを少し手直しするだけでも、パイプラインの見え方はかなり変わります。
まずは「フェーズの定義」と「受注見込み金額の列」を追加するところから始めてみてください。


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