先日、米TIME誌が毎年恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」を発表し、大きな話題を呼びました。選ばれたのは特定の個人ではなく、現代社会を根底から揺るがす「AIの設計者たち」。このニュースは、私たちBtoBマーケターにとって、決して対岸の火事ではありません。
TIME誌が「今年の顔」に選んだのは、一人の英雄ではなかった
毎年、その年に最も影響を与えた人物を選ぶTIME誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」。2023年(※元記事の年に基づく)は、一人のスーパースターではなく、「Architects of AI(AIの設計者たち)」というグループが選出されました。
その顔ぶれは、ChatGPTを世に送り出したOpenAIのサム・アルトマンCEO、AIの頭脳であるGPUで市場を席巻するNVIDIAのジェンスン・フアンCEO、SNSの巨人でありながらAI開発に巨額の投資を続けるMetaのマーク・ザッカーバーグCEOなど、まさに現代のテクノロジーシーンを牽引する巨人たちです。
この選出が非常に興味深いのは、「個人」ではなく「ムーブメントを創り出した人々」に焦点を当てた点です。これは、AIという技術がもはや一人の天才の功績ではなく、社会全体を巻き込む巨大なうねりであることを、TIME誌が公式に認めたと言えるでしょう。まさに、AI時代の本格的な幕開けを告げる号砲です。
なぜこのニュースが、BtoBマーケターに関係あるのか?
「すごいニュースなのは分かったけど、それはシリコンバレーの話でしょ?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、この時代の大きな転換点は、間違いなく私たち日本のBtoBマーケティングの現場にも、大きな変化をもたらします。具体的にどんな影響が考えられるのか、3つの視点で掘り下げてみましょう。
1. 「AI活用」が選択肢から必須スキルへ
これまで「AI」や「DX」は、どちらかというと先進的な企業が取り組むテーマ、というイメージがあったかもしれません。しかし、TIME誌が「今年の顔」に選んだことで、AIはビジネスパーソンの「共通言語」になったと言えます。
これは、BtoBマーケティングの世界においても、AI活用が「できたらいいね」という選択肢から、「できなければ取り残される」という必須のスキルセットに変わったことを意味します。例えば、
- ブログ記事やメルマガの構成案をAIで一瞬で作成する
- 膨大な顧客データをAIで分析し、より精度の高いペルソナを導き出す
- 広告クリエイティブのA/Bテスト案を、AIに無数に提案させる
といった活用は、すでに当たり前になりつつあります。競合がAIで業務を効率化し、よりクリエイティブな仕事に時間を使い始めている中、私たちも「様子見」ではいられません。
2. 顧客の「当たり前」が変わる時代
変化は、私たちマーケター側だけではありません。最も重要なのは、お客様の変化です。
BtoB企業の担当者も、製品やサービスを比較検討する際に、Google検索だけでなく生成AIに「〇〇業界向けのMAツールを比較して、それぞれの長所と短所を教えて」と尋ねるのが当たり前になるでしょう。つまり、これからのマーケターは、検索エンジンだけでなく「AIにどう評価されるか」という視点も持たなければなりません。
自社の製品情報がAIに正しく、かつ魅力的に引用されるようなコンテンツ作りは、今後のSEOならぬ「AIO(AI Optimization)」の基本になるはずです。お客様の情報収集プロセスが根本から変わる可能性を、常に念頭に置いておく必要があります。
3. 問われるのは、マーケターの「人間ならではの価値」
AIが普及すると仕事が奪われる、という議論をよく耳にしますが、私はむしろ逆だと考えています。AIが定型業務や分析作業を肩代わりしてくれるからこそ、私たちマーケターの「人間ならではの価値」が、より一層問われることになるでしょう。
AIは過去のデータから最適解を導き出すのは得意ですが、まだ誰も見たことのない未来を描く「ビジョン」や、お客様の心の奥底にある課題に寄り添う「共感力」、そしてチームをまとめ、プロジェクトを前に進める「リーダーシップ」は、人間にしかできません。
これからのBtoBマーケターに求められるのは、AIを単なる効率化ツールとして使うだけでなく、AIという優秀なアシスタントを「使いこなし」、より戦略的でクリエイティブな仕事にシフトしていく能力です。AIが出してきた分析結果を鵜呑みにせず、「なぜこの結果になったのか?」「このデータからどんな仮説が立てられるか?」と深く思考する力が、あなたの市場価値を大きく左右することになります。
まとめ:変化の波を乗りこなす準備を始めよう
TIME誌が「AIの設計者たち」をパーソン・オブ・ザ・イヤーに選んだというニュースは、私たちBtoBマーケターに対して、「もう変化は始まっている」という強力なメッセージを突きつけています。
この大きな波を脅威と捉えるか、それとも自社のビジネスを飛躍させるチャンスと捉えるか。その分水嶺は、今この瞬間の私たちの意識と行動にかかっています。
まずは今使っているMAやSFAに、どんなAI機能が搭載されているかチェックしてみる。あるいは、チームの定例会で「ChatGPTを使って、来月のセミナーのアイデアを10個出してみよう」と試してみる。そんな小さな一歩から、未来の変化を乗りこなす準備を始めてみてはいかがでしょうか。

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