新興EVメーカーRivianの自動運転技術に関するニュースが、私たちBtoBマーケターに重要な示唆を与えてくれます。壮大なビジョンとプロダクトの「現在地」をどう伝え、顧客との信頼を築くべきか。そのヒントを探ります。
はじめに:Rivianが示した「理想と現実」のギャップ
先日、米国の新興EV(電気自動車)メーカーであるRivian社が、自社の自動運転技術の進捗をメディア向けに公開しました。そのデモンストレーションは、同社が着実な進化を遂げていることを見せつけると同時に、「完全な自動運転」というゴールまでには、まだ長い道のりが残されていることを率直に示すものだったようです。
最先端のテクノロジー企業が、その成功だけでなく「未完成」な部分をもオープンにする。これは私たちBtoBマーケターにとっても、決して他人事ではありません。特に、AIやDXといった先進技術を扱うBtoB企業にとって、Rivianの姿勢は自社のマーケティングコミュニケーションを見直す絶好の機会となるはずです。
BtoBテクノロジーマーケティングにおける「壮大なビジョン」の功罪
BtoB、特にSaaSやテクノロジー分野のマーケティングでは、「私たちの製品が、あなたのビジネスをこう変革します」という壮大なビジョンを掲げることが常套手段です。もちろん、そのビジョンが顧客を惹きつけ、未来への期待感を醸成する重要な役割を担うことは間違いありません。
功:顧客を惹きつけ、未来への期待感を醸成する
「AIによる業務効率の抜本的改革」「データドリブンな経営の実現」――。こうした未来像は、顧客が現状の課題を乗り越えた先にある「あるべき姿」を想像させ、製品・サービスへの興味を強く喚起します。ビジョンに共感してもらえれば、価格や機能の単純比較から一歩抜け出し、長期的なパートナーとして選ばれる可能性が高まるでしょう。
罪:過度な期待が「がっかり感」につながるリスク
一方で、ビジョンを語ることに注力しすぎると、顧客は「導入すればすぐに理想が手に入る」と過度な期待を抱いてしまいます。しかし、多くの先進技術は、導入して終わりではありません。顧客側の運用体制の構築やトライアンドエラーを経て、初めてその価値を発揮します。この現実とのギャップが、導入後の「こんなはずじゃなかった」という顧客満足度の低下、最悪の場合はチャーン(解約)につながるリスクをはらんでいるのです。
Rivianの姿勢から学ぶ、信頼を築く3つのコミュニケーション術
では、どうすればビジョンの魅力を損なうことなく、現実とのギャップを埋め、顧客との健全な関係を築けるのでしょうか。ここで、冒頭のRivianの事例がヒントになります。彼らの姿勢から、私たちが学ぶべき3つのポイントを考えてみました。
1. 「現在地」を正直に伝える透明性
最も重要なのは、プロダクトの「現在地」を正直に伝えることです。Rivianが「まだ道半ばである」と隠さなかったように、自社製品のできること・できないこと、そして今後の開発ロードマップをオープンにすることが、顧客からの信頼を獲得する第一歩となります。「この機能は次のアップデートで対応予定です」「この領域は、現時点では手動での作業が一部必要です」といった誠実な情報開示は、短期的なデメリットに見えても、長期的には顧客との強固な信頼関係(エンゲージメント)を築く上で不可欠です。
2. プロセスを共有する「ジャーニー型」ストーリーテリング
完成されたプロダクトを一方的に提供するのではなく、顧客を「開発の旅(ジャーニー)のパートナー」として巻き込むコミュニケーションも有効です。製品が進化していくプロセスそのものをコンテンツにするのです。例えば、開発者インタビューや、新機能のベータ版への招待、ユーザーコミュニティでの意見交換などを通じて、「一緒にプロダクトを育てていく」という共創関係を築きます。これは、顧客を単なる「買い手」から、熱心な「ファン」へと昇華させる強力な手法です。
3. 機能ではなく「目指す世界観」で共感を呼ぶ
Rivianは単なる移動手段としてのEVではなく、「持続可能な社会」「冒険に出かけるライフスタイル」といった世界観を売っています。これはBtoBでも同じです。私たちが売るべきは、個別の機能の優位性だけではありません。そのプロダクトを通じて「どのような働き方を実現したいのか」「顧客のビジネスにどんな新しい価値をもたらしたいのか」という、根底にある思想や世界観を伝えることが、共感を呼び、価格競争から脱却する鍵となります。プロダクトが未完成であっても、目指す世界観がブレなければ、顧客は未来に投資してくれるのです。
まとめ:プロダクトの「未完成」を武器にする
BtoBのテクノロジーマーケティングにおいて、自社プロダクトの「未完成」な部分は、隠すべき弱点ではなく、むしろ顧客とのエンゲージメントを深めるための強力な武器になり得ます。完璧な姿を見せることだけが正解ではありません。
Rivianの事例が示すように、自社の「現在地」を正直に伝え、開発の旅路を共有し、目指すべき未来への共感を育む。そうしたオープンで誠実なコミュニケーションこそが、変化の激しい時代において、顧客から真に選ばれ続けるための王道なのかもしれません。

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