「そろそろスプレッドシート管理も限界だし、CRMを入れよう」。そう思って調べ始めると、Salesforce Sales Cloud、HubSpot CRM、Zoho CRM、Mazrica Sales(旧Senses)、eセールスマネージャーRemix Cloud、GENIEE SFA/CRM、kintoneなど、似たようなツールが大量に出てきて、正直どれを選べばいいのか分からなくなりませんか。
どれも「売上アップ」「生産性向上」と書いてあるので、見分けがつきにくい。結局、「有名だから」「安そうだから」という理由だけで選んでしまいがちです。
でも、CRMは一度入れるとカンタンには乗り換えにくい、営業やマーケの土台になるツールです。最初の比較や検討をどれだけ丁寧にやるかで、数年単位の生産性が変わってきます。
今回は、どんなタイプのCRMがあるのか、代表的なサービスには何があるのか、どんな比較軸で見ればよいのか、そして自社に合うツールをどう選べばいいのかという観点で整理してみたいと思います。
まず押さえたいCRM比較の5つの軸
自社の営業プロセスとのフィット感
最重要なのは、ツールに合わせて業務を変えすぎなくてよいかどうかです。
インサイドセールスがいるのかいないのか。フィールドセールス(訪問営業)の比率はどれくらいか。既存顧客のフォローが多いのか、新規開拓がメインなのか。営業の一日がどう流れているか(電話から訪問、提案、見積、受注へと続く流れ)。こういった自社の営業スタイルとツールの相性を見極めることが大切です。
たとえば、Salesforce Sales Cloudは複雑なプロセスにも対応できる一方で、設計の自由度が高く、その分最初の設計が重要になります。Mazrica Sales(旧Senses)やeセールスマネージャーRemix Cloudは、日本の営業現場のパイプライン管理に合わせた画面設計が特徴になっています。
ツールを見るときのポイントとしては、自社の案件ステップとツールのステータスがどれくらい近いか、既存の見積や請求プロセスと連携しやすそうか、営業メンバーが画面を見た瞬間に「これなら更新できそう」と感じるかといったところを確認してみてください。
ユーザー数と料金体系
同じCRMでも、1ユーザー単価かけるユーザー数なのか、組織単位の定額課金なのか、基本料金プラスオプション課金なのか、料金体系はさまざまです。
HubSpot CRMは基本機能が無料で使えるフリーミアム型で、必要に応じて有料プランを足していくモデルです。Zoho CRMは月額2,000円台からのプランでも機能が充実していて、コストパフォーマンス重視の比較でよく名前が挙がります。
比較するときは、最初の1年で何人が使う予定か、将来何人まで増える可能性があるか、「閲覧だけ」と「入力もする」などロールごとに権限を分けるかを決めた上で、3年間使った場合の総額で見積もっておくとギャップを減らせます。
機能範囲(SFA・MA・CSのどこまでやるか)
CRMと言いつつ、実際の機能範囲はかなり違います。
SFA寄りなのは、Salesforce Sales Cloud、Mazrica Sales、eセールスマネージャーRemix Cloud、GENIEE SFA/CRMなど。商談や予実、レポートが強いタイプです。MA寄りなのは、HubSpot CRMやSales Hub、Zoho CRMとZoho Campaignsの組み合わせなど。メール配信やスコアリングが強いタイプ。業務アプリ基盤プラスCRMとしてはkintoneなどがあって、CRM以外の業務もまとめてアプリ化できます。
今いちばん困っているのが「新規リードが足りない」のか、「商談化率や受注率が低い」のか、「既存顧客のフォローやアップセルが弱い」のかによって、選ぶべきタイプは変わってきます。
使いやすさ・現場の定着性
どれだけ高機能でも、入力が面倒だったり画面が分かりづらいと感じた瞬間、現場の利用率は落ちます。
Mazrica Salesはカード型のボード画面で案件を直感的に動かせるのが特徴です。HubSpot CRMはUIがシンプルで、初めてでも触りながら覚えやすいという評判が多いです。Zoho CRMは設定項目は多いですが、レイアウトやワークフローをある程度自社用に整えられるのが強みになっています。
「管理しやすいか?」ではなく「現場が自然に使えるか?」で評価するという視点で見ると、比較しやすくなります。
他ツールとの連携(メール・カレンダー・会計など)
CRMは単体で完結せず、たいてい他ツールと連携して使います。
GmailやOutlookとの連携、カレンダーとの予定連携(商談予定)、オンライン会議ツール、会計や請求システム、ウェブフォームやLPツールなど。
たとえば、SalesforceやHubSpotは外部サービスとの連携エコシステムが非常に豊富です。Zoho CRMは自社スイート(メール、MA、BIなど)との連携がスムーズ。kintoneは自社で業務アプリを組み立てる形なので、社内の他業務と一体で設計できます。
タイプ別・CRMツールの特徴と向いている会社
ここからは代表的なサービス名も挙げながら、タイプ別に向き不向きを整理していきます。
営業管理に特化したSFA寄りCRM
主な例としては、Salesforce Sales Cloud、Mazrica Sales(旧Senses)、eセールスマネージャーRemix Cloud、GENIEE SFA/CRMなどがあります。
特徴は、案件や商談のステータス管理が得意で、パイプライン、予実管理、レポート機能が充実していること。メール配信などのMA機能は、別ツール連携か簡易機能にとどまることも多いです。
向いているのは、既に一定数のリードがあって受注率や進捗の見える化が課題になっている会社。営業メンバーが複数名いて、誰の案件がどこまで進んでいるかが見えづらい状況。売上予測やパイプライン管理をきちんとやりたい中小から中堅企業です。
マーケティング機能もまとめたオールインワン型
主な例は、HubSpot CRMやHubSpot Sales Hub、Zoho CRM(プラスZohoのMAツール群)、SalesforceのMA製品(Pardotなど)をCRMと組み合わせる構成などです。
特徴は、リード獲得からメール配信、スコアリング、商談、受注まで一気通貫で管理できること。MA(マーケティングオートメーション)に近い機能を含んでいて、オンライン施策が多いほど効果が見えやすくなります。
向いているのは、ウェビナーや資料ダウンロード、広告などオンライン施策を多く打っている会社。どの施策が、どれだけ商談や受注に効いたかを見たい場合。インサイドセールスやマーケ担当がいる、もしくは今後置く予定の組織です。
小規模チーム向けシンプル低コスト型
主な例は、HubSpot CRM(無料プラン)、Zoho CRMのスタンダードプラン、国産のシンプルCRMやSFA(ちきゅう、FlexCRMなど)です。
特徴は、機能は最低限(顧客管理、案件管理、簡易なメール連携など)で、UIがシンプル。初めてCRMを触る人にもわかりやすく、低価格から無料で始めやすいです。
向いているのは、営業メンバーが1から5名程度の小規模チーム。まずはスプレッドシートから卒業したい。いきなり高機能なツールはハードルが高いと感じている会社です。
大企業向け高機能・カスタマイズ型
主な例は、Salesforce Sales Cloud(Enterprise以上)、Microsoft Dynamics 365、大規模向けの国産CRMやSFA(eセールスマネージャーの大規模導入など)です。
特徴は、オブジェクトや項目、レイアウトなどを細かく設計可能なこと。複数事業、複数拠点、複数ブランドにも対応しやすい。開発パートナーと組んで大規模なカスタマイズ前提になることも多いです。
向いているのは、営業組織が数十から数百人規模の会社。事業やプロセスが複雑で、そのまま使えるツールがほぼない場合。すでに他システムも多数稼働していて、連携前提で設計したい組織です。
価格帯別に見るCRMのイメージと注意点
1ユーザー月額数千円からのエントリーモデル
主な例は、Zoho CRMスタンダードプラン、GENIEE SFA/CRMのエントリープラン、Mazrica SalesのStarterプランなどです。
特徴は、小規模チームや個人事業主でも始めやすい価格帯で、機能はシンプルから中程度。初めてのCRM導入のお試しに向いています。
注意点としては、将来機能不足を感じて乗り換えが必要になる可能性があること。安さだけで選ぶと、欲しいレポートが作れないなどのギャップが出やすいです。
1ユーザー月額1万円前後のミドルレンジ
主な例は、Salesforce Sales Cloudのビジネス向けプラン、一部の国産CRMの中位プランなどです。
特徴は、中小から中堅企業のメイン選択肢になりやすいゾーンで、SFAプラス簡易MAプラスレポーティングなど、バランスよく揃っています。ある程度のカスタマイズや連携にも対応できます。
注意点は、価格に見合うだけ使い倒せるかが重要なこと。機能が増える分、設定や運用設計の難易度も上がります。
見積もりベースのエンタープライズ向け
主な例は、Salesforce Sales Cloud Enterprise以上、Microsoft Dynamics 365大規模導入、大規模カスタマイズ前提の国産CRMなどです。
特徴は、数十から数百ユーザー前提の大規模導入で、専任のカスタマーサクセスや導入パートナーが関与することも多いこと。料金は要見積もりで、年間数百万円からになるケースもあります。
注意点は、とりあえず有名だからで選ぶとオーバースペックになりがちなこと。導入や運用プロジェクトそのものに工数やコストがかかります。
よくあるCRM比較の失敗パターン
機能の多さイコール良いツールと思い込んでしまう
比較サイトを見ると、機能表でチェックがたくさん付いているツールに惹かれがちです。でも、実際に使うのはその一部だけ、というケースがほとんどなんですよね。
Salesforceのような高機能ツールも、HubSpotやZoho CRMの上位プランも、自社が使いこなす前提で初めて価値を発揮します。大事なのは、今と少し先の自社に必要な機能を、ムリなく回せるかどうかです。
現場の声を聞かずに決めてしまう
システム部門だけで決めたり、経営陣だけで選んだりといったケースは、導入後に現場からの反発や放置を招きがちです。
比較や検討の段階から、実際に毎日入力する営業、マーケティング担当、既存顧客フォロー担当などに候補ツールを触ってもらって、率直な使い心地を聞いておくことが重要です。
トライアルやPoCで検証しないまま本導入する
資料やデモ画面だけ見て決めてしまうと、思ったより入力が大変だったとか、レポートが自社の見たい粒度と合わなかったというギャップが出がちです。
多くのCRM(HubSpot、Zoho、Mazrica Sales、eセールスマネージャーなど)は無料トライアルや小規模検証が可能なので、必ず小さく試すフェーズを挟みましょう。
自社に合うCRMを選ぶためのステップ
ステップ1:営業・マーケ・CSの現状フローを棚卸し
まずはツールを見る前に、自社の現状を書き出します。
リードはどこから来るのか(紹介、展示会、ウェブ、広告など)。商談はどうやってアポを取っているのか。受注後のフォローは誰が、どのツールでやっているのか。どこで情報が分断されているのか。
これを整理すると、Salesforceのような高機能型が必要なのか、HubSpotやZoho CRMのようにMA寄りが良いのか、Mazrica Salesなど国産SFA寄りで十分なのかといった解像度が上がります。
ステップ2:必須機能・あったら嬉しい機能を分ける
候補となる機能を、必須(これがないツールは候補から外す)、できれば欲しい(あれば嬉しい)、今は不要(将来あれば検討)の3段階に分けます。
たとえば、必須は案件管理、パイプライン、ダッシュボード。できればはメール配信、ワークフロー自動化、スマホアプリ。今は不要は高度なMA機能、大規模カスタマイズ、といった具合です。
ステップ3:3から5ツールに絞って比較表をつくる
候補を10個も20個も並べると、ほぼ確実に混乱します。
たとえば、Salesforce Sales Cloud、HubSpot CRM、Zoho CRM、Mazrica Sales、eセールスマネージャーRemix Cloudのように「海外系プラス国産系プラス価格帯違い」で3から5個に絞って、タイプ(SFA寄りかオールインワンか小規模向けか)、価格(初期費用や月額)、必須機能の有無、連携可能なツール、トライアルの有無を縦軸に比較表を作ると、違いが見えやすくなります。
ステップ4:トライアル導入プラス小さく使ってみる
最後は候補を2から3に絞り込んで、少人数で実際に使ってみます。
営業数名プラスマネージャー、マーケ担当1名、CS担当1名などに、1から2週間触ってもらって、ちゃんと入力が続いたか、マネージャー視点でほしいレポートが作れたか、「ここが使いづらい」という声がどれくらい上がるかといった観点で評価します。
この段階で違和感が少ないツールが、長く付き合えるCRMの有力候補です。
比較のゴールは一番有名ではなく一番フィットするCRM
CRM比較で大事なのは、どのツールが一番有名かとか、どのツールが機能豊富かではなく、自社の営業、マーケ、CSのやりたいことに一番フィットするかどうかです。
そのために、自社の現状フローを見える化する。必須機能とあったら嬉しい機能を分ける。代表的な3から5ツールに絞って比較表をつくる。トライアルで実際に使ってから決める。このプロセスを踏むことが、いちばんの近道になると思います。


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