「そろそろCRMをちゃんと入れたい。でも Salesforce は重そうだし、HubSpot がどこまで必要かも分からない。
今は Google Workspace や Microsoft 365でスプレッドシート管理していて、正直そこまで困ってもいない──。」
営業やマーケの現場で、よく聞く悩みです。
この記事では、
- Salesforce
- HubSpot
- Google Workspace
- Microsoft 365
この4つを取り上げて、
「自社の規模・フェーズだと、どんな組み合わせが現実的なのか?」
を、規模別・フェーズ別に整理していきます。
特に、Google Workspace / Microsoft 365 を“なんちゃってCRM”として賢く使う方法も具体的に触れていきます。
そもそも、この4つは何が違うのか?
まずはざっくり「役割の違い」から整理します。
Salesforce:大規模営業組織向けの“ど真ん中CRM”
- 特徴
- SFA(営業支援)・CRM・ワークフロー・権限管理などが一通りそろった、本格的なクラウドCRM。
- カスタマイズ性・拡張性が非常に高く、大きめの営業組織の“基幹システム”になりやすい存在です。
- 向いている会社
- 営業メンバーが10名以上いる
- 商談数が多く、プロセスや承認フローをきっちり管理したい
- ダッシュボードやレポートを経営指標として活用したい
HubSpot:マーケ〜インサイドまで含めた“使いやすいCRM”
- 特徴
- もともとはマーケティングオートメーション(MA)からスタートしたツール。
- 「見込み顧客の獲得 → 育成 → 商談管理」まで一気通貫で扱えるのが強みです。
- 無料プラン〜エントリープランがあり、中小企業やスタートアップでも始めやすい料金感。
- 向いている会社
- Webサイトや広告からの問い合わせをもっと増やしたい
- インサイドセールス体制を整えたい
- マーケとセールスの情報を、ひとつのツールでつなぎたい
Google Workspace:Gmail・スプシ・カレンダーで作る“軽いCRM”
Googleには「Google CRM」という製品があるわけではありません。
ただ、Gmail / カレンダー / スプレッドシート / ドライブ / フォーム / Meetなどを組み合わせることで、
「小規模〜初期フェーズなら正直これで十分」
というレベルの“なんちゃってCRM”を作ることができます。
- 向いている会社
- 創業〜小規模フェーズ
- 営業は1〜3名程度
- まずはスプレッドシートで案件を見える化したい
Microsoft 365:Excel・Outlook・Teamsを軸にした“脱・ローカルExcel”
こちらも単体の「CRM製品」というよりは、Office製品一式+コラボツールの組み合わせです。
- Excel / Outlook / Teams / SharePoint / Power Automate などを組み合わせて、案件管理や簡易CRMを構築できます。
- 向いている会社
- すでに Windows・Office 前提で業務が回っている
- ローカルのExcelで営業管理しているが、クラウド前提に切り替えたい
- Teams や SharePoint を社内コミュニケーションやファイル共有に使っている
ツール比較の前に決めておきたい「5つの前提」
いきなり「どのツールがいいか?」から入ると、だいたい迷子になります。
その前に、次の5つをざっくり決めておくと判断しやすくなります。
- 営業人数・組織の複雑さ
個人〜数名なのか、10名を超えてチーム制なのか、50名以上の大組織なのか。 - 営業スタイル
インサイド中心なのか、フィールドセールス中心なのか、代理店・パートナーが多いのか。 - マーケティングの比重
MA(メール配信・スコアリング・LP連携など)まで一体でやりたいのか、当面は営業管理だけでいいのか。 - ITリテラシー・運用リソース
管理者をちゃんと置けるのか。
「運用できる人がいないのに、重いCRMを入れる」のはかなり危険です。 - 予算感(初期費用+月額)
1ユーザーあたり月いくらまで出せるのか。
無料〜数千円で始めたいのか、1人1万円クラスも許容できるのか。
このあたりをざっくり決めたうえで、ツールを当てはめていくと失敗しにくくなります。
Google Workspace を“CRMっぽく”使う現実的なやり方
「Google CRM」は存在しませんが、うまく設計すると小さい組織ではかなり戦えるCRM運用ができます。
スプレッドシートでシンプルな案件管理
まずは王道の「スプシCRM」から。
カラム例
- 担当者
- 会社名 / 氏名
- メール / 電話
- 流入経路(問い合わせフォーム / 紹介 / 展示会 など)
- フェーズ(新規リード / 初回アポ / 提案中 / 見積提出 / 受注 / 失注)
- 次回アクション日
- 見積金額 / 受注見込み
- メモ
このシートを、**「案件情報はここを見れば全部分かる」という“1枚”**にします。
運用のポイント
- フィルタビューで「担当者別」「フェーズ別」を簡単に切り替え
- 条件付き書式で「次回アクション日が過ぎている案件を赤表示」など、軽いアラートをつける
- Apps Script を使えば、
- 新規行が追加されたときに Chat / Slack に通知
- 期日が近い案件のリマインドメール
など、簡単な自動化もできます。
Gmail + カレンダーでアポ管理を徹底する
- Gmail
- 問い合わせフォームからのメールに自動ラベル付け
- 「リード」「商談中」「既存顧客」など自社に合ったラベルで整理
- Google カレンダー
- 商談は必ず予定に登録し、招待に顧客のメールアドレスを追加
- 案件シートに「該当カレンダーのURL」を貼っておくと、過去の商談履歴を追いやすくなります。
ドライブで資料を一元管理
- 「/Sales/クライアント名/●●社」フォルダを作る
- 中に以下をまとめて保存
- 提案資料(スライド)
- 見積書(スプシ or PDF)
- 契約書(PDF)
- 案件シートに「GoogleドライブのフォルダURL」を持たせておくと、探す手間がかなり減ります。
Googleフォームで“名刺のスプレッドシート転記”をやめる
- 「展示会用名刺入力フォーム」や「商談メモ入力フォーム」を作っておき、営業がスマホから入力するだけにする。
- 回答は先ほどの案件管理スプレッドシートへ自動で蓄積。
これだけで、**「名刺を持ち帰ってExcelに手入力」**という、よくある“ダサい作業”をかなり減らせます。
Google Workspace型CRMのメリットと限界
メリット
- Workspaceの範囲で完結するので、追加コストほぼゼロ
- スプレッドシートベースなので、誰でも扱いやすい
- 自社の運用に合わせて、項目や構造をすぐ変えられる
限界
- 権限管理や履歴管理は、本格CRMに比べると弱い
- データ量が増えてくると「誰がどこを更新したか」が追いづらくなる
- MA(スコアリングやシナリオメール)などは別ツールが必要
Microsoft 365 を“CRMっぽく”使う方法
考え方は Google Workspace とほぼ同じですが、
こちらは Excel / Outlook / Teams / SharePoint / Power Automate を組み合わせていきます。
Excel + SharePoint / OneDrive で案件共有
- Excelで案件一覧のテーブルを作成
- SharePoint or OneDrive Business 上で共有し、複数人で同時編集
- ピボットテーブルやグラフで、フェーズ別・担当者別の集計を作成
もう一歩踏み込むなら、
- SharePoint リストとして案件を管理
- Power Apps で入力フォームを作成
といった構成にすると、「Excel管理だけど、かなりCRMっぽい」状態までは持っていけます。
Outlook + Teams でコミュニケーション履歴を残す
- Outlookのメール・予定を基本ログとして使う
- Teams のチャンネルを「営業全体」「案件別」「プロジェクト別」などに分け、商談メモや資料を共有
Power Automate で軽い自動化
- 例)Webフォーム → SharePointリストに自動追加 → Teamsに通知 → 担当者にタスク発行
といったフローをノーコード寄りで組めるので、
「本格CRMまではいらないけど、ただのExcel管理からは一歩進みたい」という会社に向いています。
規模別・フェーズ別のおすすめ構成
ここからが本題です。
「結局、うちはどれを使えばいいの?」に答えていきます。
フェーズA:創業〜営業1〜2名(売上 〜1億円目安)
- 状況
- 創業したて、または新規事業の立ち上げ
- 営業は社長+1名、もしくは社長ひとり
- とにかく「案件を追い漏らさないこと」が最優先
おすすめ構成
- Google Workspace + スプレッドシートCRM
- または Microsoft 365 + Excel / SharePoint CRM
この段階で Salesforce を入れる必要は、ほぼありません。
コストも運用負荷も重く、使い切れないケースがほとんどです。
ポイント
- 案件のステータス・見込み金額・次回アクションが見える化されていればOK
- 「ツールを増やすより、商談数を増やす」フェーズと割り切ってしまって良いです
フェーズB:営業3〜10名・インバウンドリードが増えてきた(売上 1〜5億円目安)
- 状況
- 問い合わせフォームや資料請求が増えてきた
- インサイドセールスを置き始めたい
- Web / 広告 / セミナーなど、マーケ施策が増えつつある
おすすめ構成
- Google Workspace or Microsoft 365 + HubSpot Free〜Starter
- 問い合わせフォーム → HubSpot に自動登録
- メール配信や簡単なステップメール → HubSpot
- 商談管理も、当面は HubSpot のパイプラインで対応可能
なぜこの組み合わせか?
- このフェーズでつまずきやすいのは、
「リードがどこから来て、今どうなっているのかが分からない」 状態です。 - HubSpot は、
- フォーム
- メール配信
- リスト管理
- 簡易スコアリング
を一緒に扱えるので、
「マーケ〜インサイド〜フィールドをつなぐ最初の一歩」としてちょうど良いバランスです。
フェーズC:営業10〜50名・部門横断の管理が必要(売上 5〜30億円目安)
- 状況
- 営業組織がチーム制になり、マネージャーが複数人いる
- プロダクト・事業ラインが増え、「どの事業がどのセグメントに売れているか」を見たい
- 経営会議向けのレポートニーズが強くなってくる
おすすめ構成パターン
- HubSpot 有償プラン(Sales Hub / Marketing Hub)+ Workspace / M365
- Salesforce(本格CRM)+ Workspace / M365
選び方の目安
- 営業人数が10〜20名程度で、
- インバウンドリードの比率が高い
- マーケとインサイドセールスが強み
という会社なら、HubSpotの延長で戦えるケースが多いです。
- 事業ラインが複数あり、
- 部門をまたいだ商談管理
- 権限設定や承認フロー
- きめ細かいレポーティング
が必要になってくると、Salesforce を基幹CRMとして導入する選択肢が現実的になってきます。
フェーズD:営業50名以上・複数事業/海外展開あり(売上 30億円〜)
- 状況
- 営業組織が部署・地域・事業部をまたいで存在
- 海外拠点や子会社も含めてパイプラインを見たい
- 予算管理・経営管理と強く結びついたレポートが必要
おすすめ構成
- Salesforce を中核にした“基幹CRM”構成
- Salesforce
- リード〜商談〜受注〜アップセルまで一元管理
- カスタムオブジェクト・権限・承認ワークフローをフル活用
- Google Workspace / Microsoft 365
- メール・カレンダー・ドキュメント・オンライン会議の基盤
- Salesforce連携で、メールや予定を自動で商談に紐付け
- Salesforce
このクラスになると、「使いやすさ」よりも
**「基幹システムとしての安定性・拡張性・エコシステム」**が重要になってきます。
その一方で、
- 専任の管理者(社内SE・情報システム部)が必要
- パートナー企業と一緒に運用体制を組むことが前提
といった条件もセットになってきます。
スプレッドシート/Excel CRMを“卒業”したほうがいいサイン
Google Workspace / Microsoft 365 ベースのCRMはとても優秀ですが、
次のような状態になってきたら、そろそろ本格CRMを検討してもよいタイミングです。
- シートが肥大化して、「誰も数字を信用していない」
- 誰かが誤って上書きし、復旧に毎回時間がかかる
- メール・カレンダー・商談メモ・資料がバラバラの場所にある
- マネージャーが毎週、手作業でレポート(フェーズ別件数・パイプライン金額など)を作っている
- インサイド→フィールドへの引き継ぎ漏れが目立つ
- CSVのインポート/エクスポート作業が日常になっている
ここまで来ると、
「スプシはもう限界。ツールを変えないと、これ以上きれいに管理できない」
というサインです。
まとめ:大事なのは「今のフェーズに合った一歩」を選ぶこと
最後に、ざっくりおさらいです。
- 創業〜営業1〜2名
- 👉 Google Workspace もしくは Microsoft 365 + スプレッドシート/Excel CRM
- まずは「案件の見える化」と「アクション漏れ防止」ができれば十分。
- 営業3〜10名・インバウンド増加フェーズ
- 👉 Workspace / M365 + HubSpot Free〜Starter
- マーケ〜インサイド〜フィールドをつなぐ“軽量CRM”としてちょうど良い。
- 営業10〜50名・部門横断で管理したい
- 👉 HubSpot 有償 or Salesforce + Workspace / M365
- どこまで「基幹システム」として使いたいかで選択。
- 営業50名以上・複数事業/海外展開
- 👉 Salesforceを中心とした本格CRM構成
- ツールというより「システム&運用体制」として設計していくフェーズ。
ポイントは、
「世の中で一番有名なCRM」ではなく、
「いまの自社のフェーズにちょうどいい構成」 を選ぶこと。
- 重いツールを入れても、運用できなければ意味がない
- 逆に、いつまでもスプシにしがみつくと、成長の足かせになる
ということです。


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